社内SEゆうきの徒然日記

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半導体製造の未来:なぜ「コンパクトカー(ナノインプリント)」が「F1マシン(EUV)」を超えるのか?

I. 序章:あなたの買い物にF1マシンは必要ですか?半導体業界の意外な真実

 

近所のスーパーマーケットへちょっとした買い物に出かけると想像してみてください。そのとき、あなたは轟音を響かせ、大量の燃料を消費するF1マシンを選びますか?もちろん、そんなことはしないでしょう。F1マシンは非現実的なほど高価で、特定のサーキットでレースに勝つという、ただ一つの目的のために設計された究極の乗り物です。

この一見すると馬鹿げたシナリオは、実は現代のテクノロジーを根底から支える半導体業界の核心で繰り広げられている、極めて重要な議論を完璧に映し出しています。私たちのデジタル社会を動かす「エンジン」である半導体チップ。その製造方法をめぐり、二つの異なる哲学が未来の覇権を争っているのです。

この物語の主役は、二つの対照的な技術です。

一つは、EUV(極端紫外線)リソグラフィ技術。これは紛れもなく半導体製造における「F1マシン」です。息をのむほどの速度と精度を達成し、最先端のチップを生み出す唯一無二の存在ですが、その代償として天文学的なコストと莫大なエネルギーを必要とします 1

もう一つは、ナノインプリントリソグラフィ(NIL)技術。こちらは賢く、効率的で、驚くほど多才な「コンパクトカー」です。私たちの日常生活におけるほとんどの「移動」に完璧に対応し、信じられないほどの燃費と実用性を提供します 2

この記事では、なぜ最先端のコンピュータチップという狭い世界を超えた、より広範なテクノロジーの未来にとって、ナノインプリントという「コンパクトカー」的アプローチが単なる安価な代替案に留まらず、より戦略的で持続可能な選択肢となり得るのかを深く掘り下げていきます。私たちは、それぞれの技術の仕組み、コスト、環境への影響、そしてこの驚くべき結論を裏付ける市場データまで、徹底的に分析していきます。スーパーへの買い物にF1マシンが不要であるように、未来のあらゆるテクノロジーが必ずしも最も高価で最も強力な製造技術を必要とするわけではないのです。その意外な真実を探る旅に、ようこそ。

 

II. 王者の風格:超最先端を走る「F1マシン」EUV露光技術

 

半導体製造の世界において、EUVリソグラフィは絶対的な王者として君臨しています。その存在感は、まさにレース界におけるF1マシンのようです。究極の性能を追求するために、コストや効率性を度外視して開発された、唯一無二のテクノロジー。ここでは、その「F1マシン」たる所以を詳しく見ていきましょう。

 

What is EUV? より小さく、より速く、より良くへの探求

 

半導体製造の基本は、リソグラフィ、すなわち「回路の印刷」です。シリコンという円盤(ウエハ)の上に、光を使って電子回路のパターンを焼き付けていく作業を指します。この「印刷」に使うペンの先が細ければ細いほど、より微細で複雑な回路を描くことができ、結果として半導体の性能は向上します。

EUVリソグラフィは、この「ペン先」を物理的な限界まで細くした技術です。その秘密は、波長がわずか13.5nm(ナノメートル)という極端に短い光、すなわち「極端紫外線(EUV)」を使う点にあります 1。これは、従来主流だったArF液浸露光装置で使われる光(193nm)と比べても、桁違いの短さです 1。この極細の「光のペン」を用いることで、7nm、5nm、さらには3nmといった、原子数個分の幅しかない驚異的な微細回路を描き出すことが可能になります 1

このプロセスは、巨大なレンズ群を使って回路の原版(マスク)のパターンを縮小し、ウエハ上に投影する「縮小転写」という非接触方式で行われます 4。まるでプロジェクターが大きな画像を小さなスクリーンに鮮明に映し出すようなものです。この能力こそが、最新のスマートフォンに搭載されるCPUや、巨大なAIデータセンターを動かす高性能プロセッサなど、現代における最高峰の半導体チップを商業的に生産できる唯一の方法たらしめている理由です 1

 

ポールポジションの代償:コスト、複雑性、そして電力

 

しかし、F1マシンがそうであるように、究極の性能には莫大な代償が伴います。EUV露光装置は、その価格、複雑性、そしてエネルギー消費において、他の追随を許しません。

まず、そのコストは驚異的です。1台あたりの価格は200億円以上とも言われ、製造できるのは世界で唯一、オランダのASML社だけです 1。このため、この「F1マシン」を購入し、レースに参加できるプレイヤーは、世界でもTSMC、サムスン電子、インテルといったごく一握りの巨大企業に限られています 1。これはもはや、単なる設備投資ではなく、国家予算級の戦略的決断です。

そして、その巨大な装置を稼働させるためには、膨大な電力が必要となります。ナノインプリント技術が従来の先端技術と比較して消費電力を約10分の1に抑えられると主張していることからも、EUVが「燃費の悪いレーシングカー」であるという比喩は的を射ています 2。この莫大な電力消費は、単なる運営コストの問題に留まらず、環境負荷という観点からも大きな課題を提起しています。

 

地政学的なチョークポイントとしてのEUV

 

EUV技術の極端な高コストと、ASML社による市場独占という現実は、この技術を単なる製造装置から、地政学的な重要資産へと変貌させました。EUV装置を所有し、運用する能力は、今や一企業や一国家の技術的優位性、ひいては技術主権を左右する決定的な要因となっています。

この背景を考えてみましょう。まず、最先端半導体の製造に不可欠な装置が、世界で一社からしか供給されないという状況があります 1。これは、供給網における極めて脆弱な一点、すなわち「チョークポイント」を生み出します。次に、その装置を購入できるのが、世界で数社しかないという事実です 1。この二つの要素が組み合わさることで、EUV装置の流れは国際的な通商政策や安全保障上の判断によって容易にコントロールされうるものとなります。

したがって、EUV装置の導入は、もはや純粋なビジネス上の決定ではありません。それは、国の戦略的利益に関わる政治的な問題でもあるのです。台湾のTSMCがなぜ世界中からこれほどまでに注目を集めるのか、その理由の一端はここにあります。彼らが保有するEUV装置群は、世界のデジタル経済を動かす心臓部そのものだからです。EUVという「F1マシン」の所有は、単に高価な買い物をしたというだけでなく、技術大国としての地位を示す究極のステータスシンボルとなっているのです。

 

III. 未来の主役?賢い選択肢「コンパクトカー」ナノインプリント技術

 

EUVがサーキットを支配する絶対王者「F1マシン」であるならば、ナノインプリントリソグラフィ(NIL)は、我々の日常を支える賢明な「コンパクトカー」です。派手さはないかもしれませんが、その効率性、経済性、そして驚くべき多機能性は、これからのテクノロジー社会の多様なニーズに応えるための、極めて重要な鍵を握っています。

 

シンプルさのエレガンス:NILはどのように機能するのか

 

ナノインプリントの原理は、驚くほど直感的でシンプルです。一言で言えば、「ハイテクなハンコ」です 2

そのプロセスは以下の通りです。まず、製造したい回路パターンを精密に彫り込んだ「テンプレート」と呼ばれる型(ハンコ)を用意します。次に、シリコンウエハの上に紫外線で硬化する特殊な樹脂(レジスト)を塗布します。そして、その樹脂の上にテンプレートを物理的に押し付け、回路パターンを転写します 6。最後に、上から紫外線を照射して樹脂を固め、テンプレートを静かに剥がすと、ウエハ上にはテンプレートとそっくりの凹凸パターンが形成された樹脂層が残ります 2。これが、次の工程で実際の回路となるのです。

この技術の最大の特徴は、EUVのような光を使った「縮小転写」ではなく、テンプレートをそのまま1対1のサイズで転写する「等倍転写」であり、物理的な「接触」を伴う点です 4。この根本的な違いが、ナノインプリントに数々の優れた特性をもたらしています。

 

「コンパクトカー」のスペックシート:NILのキラーフィーチャー

 

ナノインプリントが「コンパクトカー」に例えられる理由は、その優れたスペックにあります。

  • 驚異的な燃費(低消費電力): 最大の魅力は、その圧倒的なエネルギー効率です。複数の資料が示すように、ナノインプリントの露光工程における消費電力は、従来の先端技術と比較してわずか10分の1にまで削減されます 2。これは、環境負荷の低減と製造コストの削減に直接的に貢献する、非常に強力なアドバンテージです。
  • 手頃な価格(低コスト): プロセスがシンプルであるため、製造装置自体もEUVに比べてはるかに安価で済みます 2。これにより、これまで最先端の半導体製造に参入できなかった多くの企業にとっても、微細加工技術への扉が開かれます。
  • 環境への配慮(低環境負荷): 製造プロセスで用いる薬液が少ないため、環境への負荷が低いという点も特長です 2。持続可能性が重視される現代において、これは見過ごせない利点です。
  • 驚くべき多才さ(設計の自由度): 光の回折限界という物理的な制約を受ける光リソグラフィと異なり、物理的にスタンプするナノインプリントは、複雑な2次元パターンだけでなく、高さの概念を持つ3次元的な構造も一回の工程で形成することが可能です 3。これにより、従来の半導体チップの枠を超えた、全く新しい機能を持つデバイスの実現が期待されています。

 

用途:単なる日常の足ではない

 

ナノインプリントは、単に性能の低いチップを安価に作るための技術ではありません。そのユニークな能力は、全く新しいカテゴリーのデバイスを生み出しています。データの保存を担うDRAMのようなメモリや、処理を行うロジック半導体はもちろんのこと 3、その真価は半導体以外の分野でさらに輝きます。

例えば、ディスプレイの反射防止膜や、AR/VRグラスに不可欠な微細な光学素子、特定の物質だけを検出する医療用のバイオチップ、曲げられるディスプレイのようなフレキシブルデバイスなど、その応用範囲は急速に拡大しています 4。これらは、EUVのような「F1マシン」ではコストや技術特性の面で製造が難しい、まさに「コンパクトカー」の機動力が活きる領域なのです。

 

複雑性の所在:「ハードウェア」対「ソフトウェア」

 

EUVとナノインプリントの根本的な違いを理解する上で重要なのは、技術的な「複雑性」がどこに集中しているか、という視点です。EUVの複雑性は「ハードウェア」、つまり装置そのものにあります。一方、ナノインプリントの複雑性は「ソフトウェア」、すなわちマスターとなるテンプレートにあります。

EUVのプロセスを考えてみましょう。極端紫外線を発生させるための巨大で複雑な光源、その光を正確に導くための特殊な多層膜ミラー、そして全てを真空中で制御するシステムなど、装置の物理的な構成が極めて複雑です 1。このハードウェアの塊こそが、200億円以上という価格の源泉です。

対照的に、ナノインプリントの装置自体は比較的シンプルに作ることが可能です。しかし、その性能は「テンプレートの品質に大きく依存する」と繰り返し指摘されています 4。つまり、マスターコピーとなるテンプレートが完璧でなければ、その欠陥がそのまま全ての製品に転写されてしまうのです。装置はシンプルでも、その「設計図」であり「金型」でもあるテンプレートには、究極の精度が求められます。

この視点は、両技術が直面する課題の違いを明確に説明します。EUVの課題は、巨大な装置をいかにして作り、安定して稼働させるかという物理学と経済学の問題です。一方、ナノインプリントの主要な課題は、いかにして欠陥のない完璧なテンプレートを作り、そして樹脂パターンを破壊することなく綺麗に剥がす(離型する)かという、材料科学と精密工学の問題なのです 4。これは単に「どちらが難しいか」という問いではなく、「困難さがどこに集中しているか」という、より本質的な違いを示しています。

 

IV. 【徹底比較】性能、燃費、価格、使い道。あなたならどちらを選ぶ?

 

EUVという「F1マシン」と、ナノインプリントという「コンパクトカー」。両者の特性を理解したところで、具体的なスペックを並べて直接比較してみましょう。この比較を通じて、なぜ「どちらが優れているか」という問い自体が的を射ていないのかが、より明確になるはずです。

 

スペックシート比較表

 

以下の表は、二つの技術の核心的な違いを、私たちの身近な自動車の比喩に沿ってまとめたものです。

特徴 (Feature)

EUVリソグラフィ (F1マシン)

ナノインプリント (コンパクトカー)

基本原理 (Principle)

短い波長の「光」で焼き付ける (Etching with short-wavelength 'light')

「ハンコ」のように直接押し付ける (Directly stamping like a 'seal')

得意なこと (Best Use)

3nm以下の超微細な最先端半導体 (Cutting-edge semiconductors below 3nm)

多様な3D形状、幅広い用途 (Diverse 3D shapes, wide range of applications)

消費電力 (Power)

非常に大きい (Extremely high)

従来の約1/10 (Approx. 1/10th of conventional)

装置コスト (Cost)

200億円以上 (Over 20 billion JPY)

比較的安価 (Relatively inexpensive)

主な用途 (Main Apps)

最先端CPU、AIチップ、HBM (Top-tier CPUs, AI chips, HBM)

メモリ、光学素子、バイオチップ、センサー (Memory, optical elements, bio-chips, sensors)

課題 (Challenges)

コスト、消費電力、装置の複雑さ (Cost, power, machine complexity)

テンプレートの欠陥低減、スループット (Template defect reduction, throughput)

この表は、複数の情報源から得られたデータを集約し、両技術のトレードオフを一目で理解できるように構成されています 1。この視覚的な比較は、記事全体の論理的な支柱として機能します。読者はこの表を見るだけで、なぜF1マシンとコンパクトカーという比喩が適切なのかを直感的に把握できるでしょう。

 

競合ではなく、異なる目的のための異なるツール

 

この比較表から明らかになる最も重要な事実は、EUVとナノインプリントが直接的な競争相手ではないということです。これは、F1マシンがコンパクトカーより「優れている」かどうかを問うのと同じくらい無意味な問いです。答えは、その目的、つまり「何をしたいのか」によって完全に変わります。

世界最速のラップタイムを記録したいのであれば、F1マシン以外の選択肢はありません。同様に、3nmプロセスで世界最先端のAIチップを製造したいのであれば、現時点ではEUVが唯一の現実的な選択肢です 1。その天文学的なコストとエネルギー消費は、究極の性能を達成するために支払われるべき代償なのです。

一方で、家族を乗せて買い物に行ったり、燃費を気にしながら長距離を移動したりするならば、コンパクトカーが圧倒的に賢明な選択です。同様に、ARグラス用の高精細な光学レンズや、特定のウイルスを検出する使い捨てのバイオセンサーを低コストで大量生産したい場合、ナノインプリントの低コスト、低消費電力、そして3D形状を一度に形成できる能力は、EUVにはない決定的な価値を提供します 3

前述の「複雑性の所在」という視点も、この「適材適所」の考え方を補強します。EUVのコストと複雑性は、装置という「ハードウェア」に固定されています。そのため、どのような用途であっても、常にF1マシンを動かすのと同じ基本コストがかかります。一方、ナノインプリントの課題は、テンプレートの完成度と物理的な転写プロセスにあります 4。これは、用途に応じてテンプレートを最適化することで、多様なニーズに柔軟に対応できる可能性を秘めていることを意味します。つまり、ナノインプリントは様々な道路状況に合わせてタイヤを履き替えることができる、汎用性の高いコンパクトカーなのです。

 

V. 市場が語る未来:誰がF1マシンを買い、誰がコンパクトカーを選ぶのか

 

技術の優劣を語る上で、市場の動向は最も雄弁な証拠の一つです。実際に企業がどちらの技術に投資しているのかを見ることで、EUVとナノインプリントがそれぞれどのような未来を描いているのかが明らかになります。そして、そのデータは驚くべき事実を指し示しています。

 

EUV市場:高額賞金が賭けられた成長著しいレーストラック

 

EUV市場は、まさにハイステークスなF1サーキットそのものです。市場規模は2024年時点で110億ドル(約1.7兆円)を超え、2032年までには240億ドル(約3.7兆円)以上に倍増すると予測されています。その年平均成長率(CAGR)は10.3%と、非常に力強い成長が見込まれています 10

この急成長の背景にあるのは、AI、5G、そして高性能コンピューティング(HPC)といった分野における、より強力な半導体への尽きることのない需要です 1。これらの分野では、性能向上のためならコストを厭わないという、まさに「F1」的な価値観が支配的です。EUVは、この究極のパフォーマンスが求められるレースで勝利するための、唯一のチケットなのです。

 

NIL市場:静かに、しかし着実に拡大する「その他すべて」の市場

 

一方、ナノインプリントの市場規模は、EUVと比較すると見劣りします。2023年時点で約1.2億ドル(約180億円)と、EUVの約100分の1の規模です 11。しかし、ここで注目すべきは、その成長率です。複数の市場調査レポートが、ナノインプリント市場は2033年頃までに約3億ドル(約460億円)規模に達し、その間の年平均成長率(CAGR)は約9.5%から9.8%に達すると予測しています 11

 

「二つの速度」で進むテクノロジー宇宙と、効率性の戦略的価値

 

ここで、非常に興味深い事実が浮かび上がります。市場規模が100倍も違うにもかかわらず、両者の予測成長率(CAGR)が約10%と、ほぼ同じなのです。これは何を意味するのでしょうか?

もし両者が同じ顧客、同じ用途を奪い合う直接的な競合相手であれば、どちらかの成長はもう一方の犠牲の上に成り立つはずです。しかし、データはそうではないことを示しています。これは、両者が全く異なる市場、異なる顧客層を開拓していることの強力な証拠です。

ここに、「二つの速度で進むテクノロジー宇宙」という概念が浮かび上がります。これは、勝者がすべてを手にする「Winner-take-all」のシナリオではありません。むしろ、テクノロジー業界が二つの異なる進化の道筋へと分岐していることを示唆しています。

一つは、EUVが走る「最高性能トラック」です。ここでは、コストを度外視してでも物理的な限界を追求することが至上命題となります。AIチップやスーパーコンピュータがこの世界の住人です。

もう一つは、ナノインプリントが活躍する、より広大で多様な「一般道」です。ここでは、大量生産、コスト効率、特殊な機能、そして持続可能性が成功の鍵となります。IoTセンサー、光学部品、バイオテクノロジー、ウェアラブルデバイスなどがこの世界を構成します 11。EUVが経済的にも技術的にも参入できない、これらの新しい市場において、ナノインプリントの低消費電力と低コストという特性は、単なる長所ではなく、その技術が採用されるための根本的な経済的推進力となっているのです 2

この市場データの分析は、ユーザーが提示した「F1マシンとコンパクトカー」という核心的な比喩を、経済的な観点から完全に裏付けています。テクノロジーの世界には、「F1サーキット」よりもはるかに多くの「市街地」や「田舎道」が存在します。そして、その広大な一般道において、「コンパクトカー」であるナノインプリントが力強い成長を遂げているのです。

 

VI. 結論:すべての道がサーキットではない。未来の産業を支える賢い技術

 

本稿では、半導体製造における二つの先端技術、EUVリソグラフィとナノインプリントリソグラフィを、「F1マシン」と「コンパクトカー」という比喩を用いて分析してきました。この旅を通じて明らかになったのは、どちらか一方が他方に取って代わるという単純な未来ではなく、両者がそれぞれの得意分野で共存し、共に成長していくという、より複雑で健全な未来像です。

EUVリソグラフィは、物理学の限界に挑み、人類の計算能力を新たな高みへと引き上げる、息をのむほどに素晴らしい技術です。それは、最先端のレーストラックで勝利を収めるために不可欠な、比類なきチャンピオンです。AI革命や次世代通信網の実現は、この「F1マシン」なしには語れません。

しかし、明日を形作るテクノロジーは、最先端のCPUだけではありません。スマートデバイス、無数のIoTセンサー、医療診断チップ、そして拡張現実(AR)が織りなす、より広大で、多様で、持続可能なテクノロジーの世界がすぐそこまで来ています。この未来は、ナノインプリントが体現する哲学、すなわち「効率性」「多才さ」、そして「アクセシビリティ」によって築かれ、駆動されていくでしょう。低消費電力で、低コストで、そして3次元構造さえも自在に作り出せるその能力は、新しい産業を創出するための強力なエンジンとなります。

未来は一つのレースではありません。それは、無数の道路、高速道路、路地が複雑に絡み合った巨大な交通システムです。私たちはこれからもサーキットを疾走するF1マシンの姿に興奮し続けるでしょう。しかし、社会全体を動かす真の革命は、日々の生活を支える一般道で起こります。そして、その道を走るための最も賢明で、最も実用的な乗り物は、間違いなく効率的なコンパクトカーなのです。

EUVとナノインプリント、この二つの技術が並行して力強く成長しているという事実は、半導体産業がより成熟し、多様化している健康的な兆候に他なりません。すべての道がサーキットではないように、すべてのアプリケーションがEUVを必要とするわけではない。その単純な真実こそが、これからのテクノロジーの未来を豊かにしていく鍵なのです。

 

VII. ナノインプリントとEUVに関するQ&A

 

  1. Q: ナノインプリントを一言で説明すると何ですか?
    A: 回路パターンが刻まれた「ハンコ(テンプレート)」を樹脂に押し付けて、物理的にパターンを転写する、シンプルで省電力な半導体製造技術です 2。
  2. Q: EUV露光技術との最大の違いは何ですか?
    A: ナノインプリントが物理的な「接触(ハンコ)」で等倍転写するのに対し、EUVは非常に短い波長の「非接触(光)」でパターンを縮小して焼き付けます。このため、装置の複雑さ、コスト、消費電力が大きく異なります 4。
  3. Q: ナノインプリントはなぜ「環境に優しい」と言われるのですか?
    A: 従来の先端技術に比べて、製造時の消費電力が約10分の1と非常に少なく、使用する化学薬品も少ないため、環境負荷が低いとされています 2。
  4. Q: EUVはなぜそんなに高価で、消費電力が大きいのですか?
    A: 原子数個分の幅しかない超微細な回路を「光」で描くために、巨大で複雑な光源と真空チャンバー、特殊なミラーが必要だからです。この装置の維持と稼働に莫大なコストと電力が必要になります 1。
  5. Q: ナノインプリントは最先端のCPU製造に使えますか?
    A: 現時点では、3nmプロセスの様な最先端ロジック半導体の量産はEUVが主流です。しかし、ナノインプリントはメモリや他の種類の半導体でその可能性を広げており、将来的な技術開発が期待されています 1。
  6. Q: ナノインプリントの主な用途は何ですか?
    A: 半導体メモリ(DRAM)やロジックに加え、その3D形状を作れる特性から、ディスプレイ用の光学素子、ARグラス、医療用バイオチップなど、半導体以外の分野でも応用が広がっています 3。
  7. Q: ナノインプリント技術の課題は何ですか?
    A: 「ハンコ」であるテンプレートに欠陥がないこと、そしてそれを綺麗に剥がす(離型する)ことが重要です。欠陥をゼロに近づけながら、生産スピード(スループット)を上げることが最大の課題です 4。
  8. Q: EUVとナノインプリントは競争相手なのですか?
    A: 直接的な競争相手というよりは、それぞれ異なる得意分野を持つ「別の道具」です。F1マシンとコンパクトカーのように、用途に応じて使い分けられます。市場データも両方が並行して成長していることを示しています 10。
  9. Q: なぜナノインプリントは「コンパクトカー」に例えられるのですか?
    A: 燃費が良い(低消費電力)、価格が手頃(低コスト)、小回りが利く(多様な用途に対応できる)という特徴が、経済的で実用的なコンパクトカーのイメージにぴったりだからです。
  10. Q: 今後、ナノインプリント市場は成長しますか?
    A: はい、複数の市場予測レポートが、年率約10%という高い成長率で市場が拡大すると予測しています。特にIoT、光学、バイオテクノロジー分野での需要増が成長を牽引すると見られています 11。

引用文献

  1. 露光装置(リソグラフィー)~2nm微細パターン形成用EUV/チップレット向け大判インターポーザ/直接描画/ナノインプリント..多様なニーズに応える | セミコンダクター・エンジニアズ, 9月 17, 2025にアクセス、 https://semi-engineers.com/lithography-tool/
  2. ナノインプリントリソグラフィ(NIL) | 精密機器部品・部材 ... - DNP, 9月 17, 2025にアクセス、 https://www.dnp.co.jp/biz/products/detail/20172753_4986.html
  3. ナノインプリントリソグラフィ | キヤノングローバル - Canon Global, 9月 17, 2025にアクセス、 https://global.canon/ja/technology/nil-2023.html
  4. 光ナノインプリント リソグラフィ技術 - 東芝, 9月 17, 2025にアクセス、 https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/migration/corp/techReviewAssets/tech/review/2012/04/67_04pdf/a11.pdf
  5. ナノインプリントとは?特徴や活用が期待される分野を紹介 - 東京応化工業は, 9月 17, 2025にアクセス、 https://www.tok-pr.com/column/a13
  6. 開発者が語る - 「ナノインプリントリソグラフィ」開発秘話 | キヤノングローバル - Canon Global, 9月 17, 2025にアクセス、 https://global.canon/ja/technology/interview/nanoimprint/
  7. DNP【ナノインプリントリソグラフィ】 - YouTube, 9月 17, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=T4DPDZw2b7g
  8. 半導体製造のカーボンニュートラルを加速する「ナノインプリントリソグラフィ」 | Discover DNP, 9月 17, 2025にアクセス、 https://www.dnp.co.jp/media/detail/10161674_1563.html
  9. EUVリソグラフィの要素技術と今後の動向, 9月 17, 2025にアクセス、 https://gijutsu-keisho.com/technical-commentary/semiconductor-003/
  10. EUVリソグラフィ市場規模、シェア、業界レポート、2032 - Fortune Business Insights, 9月 17, 2025にアクセス、 https://www.fortunebusinessinsights.com/jp/euv%E3%83%AA%E3%82%BD%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%95%E3%82%A3%E5%B8%82%E5%A0%B4-113102
  11. ナノインプリント・リソグラフィシステム市場規模は2033年に予測 - Spherical Insights, 9月 17, 2025にアクセス、 https://www.sphericalinsights.com/jp/reports/nanoimprint-lithography-systems-market
  12. Nanoimprinters市場シェア、サイズ、2033年までのトレンド - Business Research Insights, 9月 17, 2025にアクセス、 https://www.businessresearchinsights.com/jp/market-reports/nanoimprinters-market-106492
  13. 予想される年平均成長率(CAGR)は8.4%であり、ナノインプリント装置市場分析レポート - Pando, 9月 17, 2025にアクセス、 https://pando.life/article/2313721
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