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オープンソースでなく、有料だけどchatGPT OSSを意識した製品。
有料ながらセキュリティも保持しつつややこしそうな管理の手間を抑えられるのがメリット。
個人的には面白そうとは思うけど、あとは、価格次第かな・・・(ソフトだけでなく、ハードウェア(サーバー)代や維持費も考えたトータルで)
判断は読んだ人にお任せ
たぶん、openAIも対抗製品すぐ出すんだろうな・・・・
それにしても開発競争がすごい早さでびっくり!
すぐにopenAIも対抗製品出すんだろうな。。。
一般的に、、、
オープンソース 初期費用が安い(というかソフトはただ)から、わからないことがあれば都度自分たちでググってコミュニティサイト等をみて対処できる組織ならおすすめ。一般的に提供元メーカーの無償サポートはなし。ソフトは無料、提供元メーカーがサポートしていることも。そっちで元を取るのがビジネスモデル。Redhut Linuxが有名。
数は少ないながらも外部サポート業者もあるけど(有償)頻繁におんぶに抱っこするならかえって高くつくかも・・・。
よくある誤解。オープンソースはあくまでも、ハードウェアの上で動くソフトのみ(システムの一部)が無料。
ハードウェアや維持費(電気代、プライベートAIならばデータセンター利用料、)、サポートを使えばサポート料は有料。
有償製品版 一般的に販売メーカーによるサポートあり 初心者が多く、自分たちで対処が難しい組織にはこちらがおすすめ。
オープンソースと同じく別途ハードウエア代 ➕️維持費
携帯の大手キャリアとMVNO、Windows-Linuxの使い分けみたいな・・・。
個人的には「オープンソースってなあに?」と聞く技術レベルの組織はオープンソースには手を出さない方がいいと思うな。。。

はじめに:日本のビジネスが直面する「AI導入のジレンマ」
生成AIがもたらすビジネス変革の巨大なポテンシャルは、もはや誰もが認めるところです。しかし、多くの日本企業にとって、その導入は大きなジレンマを伴います。データセキュリティ、プライバシー保護、そして厳格な規制コンプライアンスは、ビジネスにおける譲れない一線であり、クラウドベースのAIサービスがもたらす情報漏洩やデータ主権喪失のリスクは、導入を躊躇させる最大の要因となってきました。
この根深い課題に対し、Googleは一つの明確な答えを提示しました。同社の最先端AIモデル「Gemini」を、企業が自社のデータセンター内で運用できるオンプレミスソリューションとして提供を開始したのです 1。これは、特に厳しいデータ要件を持つ企業や政府機関を対象とした画期的な動きです。Google自身が「最新のAIを導入するか、データを保護するかの困難な選択は、今日で終わります」と宣言しているように、これは業界にとって一つの転換点となる可能性があります 3。
このオンプレミス版Geminiは、単なるソフトウェアではありません。「Google Distributed Cloud (GDC)」と呼ばれる、GoogleのAIスタック全体を企業のデータセンター内に安全に持ち込むための、ハードウェアとソフトウェアが一体となったフルマネージドプラットフォームです。
本記事では、この新しいソリューションが日本のビジネスリーダーが抱えるAI導入のジレンマを本当に解決できるのか、専門的な視点から徹底的に分析します。GDCの基盤技術、求められるハードウェア要件、AIの信頼性を左右するハルシネーション(幻覚)への対策、そして最も重要な、セキュアなデータアクセス機能について深掘りします。さらに、自社でオープンソースAIを構築するアプローチとの比較、そしてコスト構造の全貌を解き明かし、日本企業が取るべき次の一歩を考察します。
この動きの背景には、「ソブリンAI(Sovereign AI)」という世界的な潮流があります。これは、国家や規制の厳しい業界が、データ、モデル、インフラに対する完全なコントロールを維持するために、自国の地理的・法的境界内でAI能力を構築するという考え方です。NVIDIAのCEO、ジェンスン・フアン氏がこれを「新たな成長エンジン」と位置づけていることからも、チップからモデルに至るまで、エコシステム全体がこの目的に向かって最適化されていることがわかります 3。シンガポール政府機関(CSIT, GovTech, HTX)との緊密な連携は、このソブリンAIのコンセプトを具現化する強力な先行事例であり、他の国々にとっての青写真となっています 2。この文脈を理解することは、日本の企業や政府機関にとって極めて重要です。なぜなら、Gemini on GDCが、日本が最優先事項とするデータローカリティ、コンプライアンス、そして技術的独立性といった懸念に、まさに正面から応えるために設計されたソリューションであることを示しているからです。
クラウドを超えて:オンプレミス版「Gemini」の正体
「オンプレミス版Gemini」と聞くと、自社のサーバーにソフトウェアをインストールするようなイメージを持つかもしれません。しかし、その実態はより包括的で強力なものです。その正体は「Google Distributed Cloud (GDC)」という、物理的には顧客のデータセンター内に設置されながら、Googleによって完全に管理・運用されるプライベートなミニGoogle Cloudとも呼べるソリューションです。
GDCは、生成AIを活用するために必要な要素をエンドツーエンドで提供するプラットフォームとして設計されています。これには、Geminiモデル本体だけでなく、スケーラブルなインフラ、他のAIモデル(オープンソースのGemmaファミリーなど)のライブラリ、高性能な推論サービス、そして後述する「Agentspace search」のような構築済みAIエージェントまでが含まれます 1。その規模は、1台のサーバーから数百のラックにまで拡張可能です。
このGDCには、セキュリティ要件に応じて選択できる2つの主要な構成が存在します。
GDC Connected
この構成は、コントロールプレーンの管理やソフトウェアの更新のために、Google Cloudへの安全な接続を維持します。データの処理はローカルで行うことで低遅延を実現しつつ、Googleによるリモートでの管理・運用のメリットを享受したい組織に適しています。現在、このプラットフォーム上でのGeminiの提供はプレビュー段階にあります 1。これは、より一般的で、比較的制約の緩やかなユースケースを想定した選択肢と言えるでしょう。
GDC Air-Gapped
これは、最高レベルのセキュリティを求める組織のための選択肢です。システム全体が物理的にも論理的にもパブリックインターネットから完全に切り離された「エアギャップ」状態で運用されます。防衛、国家安全保障、重要インフラなど、データ主権とセキュリティに関する最も厳しい要件を持つ組織向けに設計されています 1。注目すべきは、Geminiがこのエアギャップ構成で最初に「一般提供(General Availability)」された点です 1。これは、Googleがこの高セキュリティ市場へのコミットメントをいかに重視しているかを示しています。
どちらの構成においても、最大の利点は「マネージドサービス」であることです。GDCは「ゼロタッチ」でのアップデート、自動的な負荷分散(ロードバランシング)、オートスケーリングといった複雑な運用を、すべてGoogleの高度なフリート管理能力によって自動的に行います 1。これにより、企業はインフラの維持管理という煩雑な作業から解放され、AIを活用したアプリケーション開発という本来の目的に集中できるのです。これは、すべてを自社で行うDIYアプローチと比較した場合の、根本的な価値提案となります。
AIを動かす心臓部:オンプレミス版Geminiのハードウェア要件
Geminiのような最先端のAIモデルをオンプレミスで実行するには、相応のエンタープライズグレードのハードウェアが不可欠です。これはデスクトップや単一サーバーでのセットアップではなく、データセンターレベルのインフラソリューションとして提供される、事前構成済みのマネージドシステムです。
この強力なプラットフォームの心臓部を担うのが、NVIDIAとの緊密なパートナーシップです。GDCは、NVIDIAの最新かつ最もパワフルなGPUアクセラレータ、HopperおよびBlackwellシステムを活用しており、最も要求の厳しいAIのトレーニングや推論ワークロードに対して、最高レベルのパフォーマンスを保証します 1。
ハードウェアの調達方法には2つのモデルが用意されています。一つは「Google調達モデル」で、Googleがハードウェアのリース、所有、保守を行い、顧客は運用コスト(OpEx)として利用できます。もう一つは「顧客調達モデル」で、サーバーハードウェアに限定されますが、顧客自身がハードウェアを所有し、Google認定のパートナーが導入を支援します 16。
GDCで提供されるハードウェア構成は、企業のニーズに応じて複数の選択肢があります。その規模感を具体的に理解するために、以下の表に主要な構成をまとめました。これにより、ITリーダーやビジネスリーダーは、自社の想定するワークロードと必要な投資規模を具体的に把握することができます。
表1:Google Distributed Cloud (GDC) ハードウェア構成の概要
|
構成タイプ |
主な用途 |
CPU (vCPU) |
GPU (オプション) |
RAM (GB) |
ストレージ (TB SSD) |
|
GDC Connected Server (Medium) |
中規模・汎用コンピューティング |
32または96 |
1または3 x NVIDIA L4 |
64または192 |
1.6または4.8 |
|
GDC Connected Server (Large) |
大規模・汎用コンピューティング |
64または192 |
1または3 x NVIDIA L4 |
128または384 |
3.2または9.6 |
|
GDC Connected Rack |
大規模・ネットワーク集約型コンピューティング |
384~1546 |
サポートなし |
1536~6144 |
9.6~38.4 |
注:サーバー構成は通常1台または3台のユニットで、ラック構成は3から12のノードで展開されます。現時点ではラック構成はGPUをサポートしていません 16。
この表が示すように、GDCは単なるサーバー購入ではなく、戦略的なデータセンター投資です。企業は、この具体的なスペックを基に、Googleの営業・技術チームと意味のある対話を開始し、自社のAI戦略に最適なハードウェア基盤を計画することが可能になります。
AIの回答は信頼できるか?ハルシネーション(幻覚)と信頼性の深掘り
生成AIの導入における最大の懸念の一つが、「ハルシネーション(幻覚)」です。これは、AIが事実に基づかない情報を、あたかも真実であるかのように自信を持って生成してしまう現象であり、企業の意思決定に利用する上での致命的なリスクとなり得ます。GoogleのGemini 1.5 Proは、この問題に対処するため、「グラウンディング(Grounding)」という核心技術によって、極めて低いハルシネーション率を実現するよう設計されています。
単一の「ハルシネーション率」という指標だけでモデルの信頼性を完全に測ることは困難ですが、各種ベンチマークがその性能の一端を示しています。例えば、Vectara社のハルシネーション評価リーダーボードでは、様々なGeminiモデルが業界最高水準である1~2%程度の低いハルシネーション率を記録しています 17。ただし、ここで重要な注意点があります。ある研究では、ユーザーがAIに対して過度に簡潔な回答を要求すると、モデルの「ハルシネーション耐性」が84%から64%にまで低下したことが報告されています 18。これは、AIの信頼性を引き出すためには、ユーザー側のプロンプトの工夫も重要であることを示唆しています。
Google自身の技術レポートでは、Gemini 1.5 Proが「Needle-in-a-Haystack(干し草の中の針)」テストにおいて、99%を超えるほぼ完璧な再現率(recall)を達成したと報告されています 19。このテストは、膨大な情報(数百万トークン)の中から特定の事実を見つけ出して正確に利用する能力を測るものであり、モデルの事実に基づいた信頼性を直接的に示す強力な証拠です。
この高い信頼性を支える技術が「グラウンディング」です。これは、AIが単に内部のトレーニングデータに基づいてテキストを生成するのではなく、その出力を特定の、検証可能な情報源に結びつける(根拠づける)プロセスを指します 21。これが、Googleがハルシネーションに対抗するための主要な技術的防御策なのです 23。
さらにGoogleは、ユーザー側でリスクをさらに低減するためのベストプラクティスも公式に推奨しています。これには、「確信がある場合のみ回答してください」「引用元を提示してください」といった明確な指示を与えるプロンプトエンジニアリングや、複雑な質問を小さなステップに分解する手法、そしてRAG(Retrieval-Augmented Generation)システムの活用などが含まれます 24。AIの信頼性は、モデルの能力とユーザーの利用方法論とのパートナーシップによって最大限に高められるのです。
最新情報へのアクセスはどうなっている?「検索機能」の真実
オンプレミス版Geminiの「検索機能」は、多くの企業が抱くであろう期待と、その実際の機能との間に重要な違いがあります。クラウド版のGeminiが持つリアルタイムのWeb検索能力と、オンプレミス版が提供するセキュアな内部データ検索能力は、根本的に異なる目的のために設計されています。この違いを理解することは、ソリューションを正しく評価する上で不可欠です。
まず、標準的なクラウド版のGemini APIがどのように機能するかを見てみましょう。これは「Grounding with Google Search」というツールを利用します 23。この機能は、Geminiをライブの公開ウェブに接続し、最新の出来事に関する質問に答えることを可能にします。非常に強力ですが、インターネット接続を必須とし、公開されている情報を処理することが前提となります。
これに対し、オンプレミス版GDCで提供されるのは「Agentspace search」です。これは、企業の内部データソースを横断して検索を行うための、「権限を認識するマネージドRAG(Retrieval-Augmented Generation)エクスペリエンス」と明確に定義されています 1。
この技術的な違いが、ビジネスにもたらす価値は計り知れません。Agentspaceは、企業の最も機密性の高い内部情報、例えば社内データベース、文書リポジトリ、イントラネット、さらにはレガシーシステムに至るまで、それらのデータがファイアウォールから一歩も出ることなく、Geminiが安全に検索し、内容を統合・要約することを可能にします。
ここで最も重要なのが、「権限を認識する(permissions-aware)」という点です。これは、AIが検索を行う際に、既存のユーザーアクセス権限を完全に尊重することを意味します。つまり、ある従業員がAIを使って、本来その従業員がアクセス権を持たない情報を見つけ出してしまう、といった内部情報漏洩のリスクを根本から排除します 7。
このAgentspace searchこそが、オンプレミスAIの「キラーアプリケーション」と言えるでしょう。多くの企業では、その価値ある知的資産の大部分が、構造化されたデータベースではなく、Word文書、PDF、プレゼンテーション、社内Wikiといった非構造化データ、いわゆる「ダークデータ」の中に眠っています。従来のエンタープライズサーチツールでは、これらのサイロ化された情報から価値を引き出すことは困難でした。
生成AIの自然言語理解能力は、この膨大な非構造化データの宝庫を読み解き、要約するユニークな能力を持っています。Googleは、この能力を企業の内部データに対して安全かつ権限を遵守した形で適用する手段を提供することで、単なるチャットボットを超えた、組織全体の「ナレッジエンジン」を提案しているのです。「過去5年間の素材Xに関する社内研究をすべて要約し、その素材に関するサプライヤー契約と相互参照して」といった複雑な問いに対し、数秒で正確かつ出典付きの回答を得られる能力は、ビジネスの意思決定速度と質を根底から変える可能性を秘めており、オンプレミスAIへの投資を正当化する最大の推進力となります。
徹底比較:オンプレミス版Gemini vs. 自社構築オープンソースAI
オンプレミスで生成AIを導入する際、企業は大きな戦略的選択を迫られます。それは、Googleのようなベンダーが提供するマネージドサービスを購入する「バイ(Buy)」のアプローチか、それともLlama 3やMistralといったオープンソースモデルを自社で構築・運用する「ビルド(Build)」のアプローチか、という選択です。これは単なる技術選定ではなく、オープンソースの持つ完全な柔軟性と、マネージドサービスの堅牢なセキュリティ、信頼性、そして低い運用負荷とを天秤にかける、経営レベルの判断と言えます。
オープンソース(OSS)の魅力と、その裏に潜む重責
まず、オープンソースソフトウェア(OSS)が持つ強力な魅力を正しく認識することが重要です。モデル自体のライセンス費用が不要であること、コードを完全にコントロールできること、ビジネスニーズに合わせた深いカスタマイズが可能であること、そして特定ベンダーへの依存(ベンダーロックイン)を避けられることは、計り知れないメリットです 31。
しかし、この自由には重い責任が伴います。自社でOSSをホストするということは、見過ごされがちな多くの「隠れた負担」を自ら背負うことを意味します。
- セキュリティに対する全責任: 自社構築の場合、セキュリティスタック全体に対する責任は100%自社にあります。これには、データセンターの物理的セキュリティ、ネットワークの要塞化、すべてのソフトウェア依存関係に対する継続的なパッチ適用、プロンプトインジェクションによるデータ漏洩の防止、入力のサニタイズ、そしてセキュアな監査ログシステムのゼロからの構築と維持が含まれます 34。
- 終わりのない運用業務(LLMOps): モデルのライフサイクル全体(デプロイ、スケーリング、監視、ファインチューニング、最適化)を管理しなければなりません。これを24時間365日体制で維持するためには、高度なスキルを持つ高価なMLOps専門チームが不可欠です 32。
- 高額な総所有コスト(TCO): 高性能なGPUサーバーへの初期投資に加え、電力、冷却、データセンターのスペースといった継続的な運用コスト、そして何よりも、この複雑なシステムを管理・保護するために必要な専門家チームの人件費が、TCOを押し上げます 32。
GDCマネージドサービスの優位性
これらOSSの課題に対し、GDCプラットフォームは明確な価値提案で応えます。
- 組み込みのエンタープライズ級セキュリティ: GDCは単なるサーバーではなく、セキュリティ製品としての側面を持ちます。GPUによる処理中のデータさえも暗号化する「コンフィデンシャルコンピューティング」、組み込みの安全ツール、包括的な監査ログ、詳細なアクセス制御といった機能が標準で提供され、それらはすべてGoogleによって管理・更新されます 1。
- 劇的に簡素化された運用: 「ゼロタッチアップデート」や自動スケーリングを備えた「フルマネージド」プラットフォームであるGDCは、インフラ管理の immense な複雑さを抽象化し、社内チームがインフラの心配をすることなく、アプリケーション開発に集中することを可能にします 1。
- 予測可能なTCO: サブスクリプション費用は決して安価ではありませんが、コストは予測可能です。これは、専門チームの人件費やインフラのオーバーヘッドといった、見積もりが難しく変動しやすいDIYアプローチのコストと比較して、明確なTCO計算を可能にします。
この戦略的なトレードオフを明確にするため、以下の比較表を作成しました。これは、日本のCIOやITマネージャーが、技術的な選択をビジネス上の意思決定へと昇華させるための、明確で防御可能なフレームワークを提供します。
表2:オンプレミスAI導入:マネージドサービス vs. 自社構築OSS
|
評価項目 |
Google Gemini on GDC (マネージドサービス) |
自社構築オープンソースLLM (DIY) |
|
セキュリティ |
統合されたエンタープライズ級の機能をGoogleが管理・更新 |
ユーザーが全責任を負う。複雑で多層的な設定が必須。 |
|
データガバナンス |
権限認識型Agentspaceや監査ログなどのツールを標準装備 |
カスタムでの構築、統合、維持が必要。 |
|
保守・更新 |
Googleによるスタック全体への自動「ゼロタッチ」アップデート |
専門スタッフによる継続的な手動作業と計画停止が必要。 |
|
必要な専門知識 |
AIアプリ開発者、データサイエンティストに集中 |
インフラ、サイバーセキュリティ、MLOpsの高度な専門家が必須。 |
|
初期導入 |
Googleまたは認定パートナーによる効率的で予測可能な導入 |
非常に複雑で時間のかかるインフラ・ソフトウェア統合プロジェクト。 |
|
総所有コスト(TCO) |
初期/サブスクリプション費用は高いが、運用コストは低く予測可能 |
モデルライセンスは無料だが、専門スタッフ、ハードウェア、電力等の隠れたコストが非常に高い。 |
この比較からわかるように、選択は単に「どのモデルが良いか」という技術的な問題ではなく、「どの運用モデルとリスクモデルが自社にとって最適か」という、より高度な経営判断なのです。
価格設定の解読:オンプレミス版Geminiのコスト構造
Google Distributed Cloud (GDC) 上でGeminiを運用する場合、単純な定価は存在しません。これはハイエンドのエンタープライズソリューションであり、そのコストはハードウェア、管理サービス、サポートを含む包括的な総所有コスト(TCO)として評価されるべきです。
まず明確にしておくべき点は、GoogleがGDCの公式な価格表を公開していないことです 40。オンラインで見られるGemini APIやGoogle Workspaceの料金プランは、あくまでクラウドベースのサービスに対するものであり、GDCの価格設定とは直接関係ありません。これらはGoogleが各種AIサービスをどのように価値付けているかの参考にはなりますが、GDCのコストを測る指標にはなりません。
GDCのコストは、主に以下の要素で構成されます。
- ハードウェアコスト: 物理的なサーバーやラック本体の費用です。これは、顧客がハードウェアを所有する「顧客調達モデル」の場合は初期投資(CapEx)に、Googleからリースする「Google調達モデル」の場合は継続的な運用コスト(OpEx)になります 7。
- GDC管理手数料: プラットフォームのマネージドサービスに対する継続的なサブスクリプション料金です。現在公開されている唯一の具体的な数値として、「GDC Connected Servers」が5年契約ベースで1ノードあたり月額約415ドルからという例があります 30。これはあくまで一例であり、構成によって変動しますが、コストの規模感を把握する上で重要な手がかりとなります。
- モデル利用料: 現時点の公開情報では、プラットフォーム料金に加えて、GDC上でGeminiモデルを使用する際にトークンごと、あるいはクエリごとの追加料金が発生するかどうかは明確ではありません。これは、Googleの営業担当者に確認すべき最重要項目の一つです。
- 必須のプレミアムサポート: GDCソリューションの利用には、Google Cloudの「プレミアムサポート」契約が必須条件となっており、これもコストに加算されるべき要素です 16。
これらのコストを評価する際には、必ずTCOの観点からアプローチすることが推奨されます。GDCソリューションの総コストは、オープンソースを自社構築する場合の完全なTCOと比較検討されるべきです。OSSのTCOには、初期のハードウェア購入費用、電力・冷却・データセンターのスペースといった継続的なインフラコスト、そして最も重要な、システムを24時間365日体制で運用・保護するために必要なサイバーセキュリティおよびMLOps専門チームの年間人件費(福利厚生等も含む)が含まれます 32。表面的なライセンス費用の有無だけでなく、これらの隠れたコストをすべて洗い出した上で、どちらのアプローチが自社にとって経済的合理性を持つかを判断する必要があります。
結論:日本のAI活用に向けた新たな道筋
Googleのオンプレミス版Gemini on GDCは、すべての企業にとっての万能薬ではありません。これは、データの主権、セキュリティ、そして運用の安定性がビジネスにおける交渉の余地のない最優先事項である、大企業や政府機関のために精密に設計された、プレミアムかつ強力で、極めてセキュアなプラットフォームです。
本分析を通じて明らかになったのは、オンプレミスAI導入における戦略的なトレードオフです。オープンソースAIを自社で構築する道は、モデルライセンス費用がゼロで、完全な柔軟性を手に入れられるという魅力があります。一方で、GDCというマネージドサービスを選択する道は、その柔軟性と引き換えに、統合されたエンタープライズ級のセキュリティ、劇的に削減された運用リスク、そして予測可能なパフォーマンスを手に入れることを意味します。
これまで、正当なセキュリティ懸念から生成AI革命を静観せざるを得なかった多くの日本企業にとって、このGDCという選択肢は、AI導入への道を切り拓く、初めての現実的かつ実行可能な道筋を提示しています。それは、AI導入における最大の技術的・運用的障壁を取り除くものです。
Googleの戦略は、単に優れた製品を提供するだけにとどまりません。GDCプラットフォーム上で、オープンソースのGemmaとプロプライエタリなGeminiの両方を提供することで、強力なオンプレミスエコシステムを構築しています 10。企業はまず、セキュリティを確保するためにGDC上で使い慣れたオープンソースモデルの運用から始めるかもしれません。しかし、一度GDCのハードウェアに投資し、その「ゼロタッチ」アップデートや組み込みのセキュリティといったマネージドサービスの利便性を享受すれば、より高度な機能が必要になった際の最も論理的で迅速なアップグレードパスは、同じプラットフォーム上でGeminiを有効化することになります。この時点で他のソリューションに乗り換えることは、多大なコストと時間を要する再投資を意味するため、GDCは本質的に「定着しやすい(sticky)」エコシステムとなっているのです。この長期的な戦略的コミットメントの可能性は、プラットフォームを評価する上で考慮すべき重要な点です。
最終的な結論として、表面的なコストだけを見れば、オープンソースを自社で構築するルートの方が安価に見えるかもしれません。しかし、その背後には、複雑な運用、専門人材の確保という重い負担、そして計り知れないセキュリティリスクが潜んでいます。複雑なAIインフラの管理が本業ではなく、データ漏洩に対するリスク許容度がゼロである組織にとって、Gemini on GDCは、これまで閉ざされていた生成AIの変革力を安全に解き放つための、説得力のある新たな戦略的選択肢となるでしょう。日本のビジネスリーダーには、単なる機能比較を超え、本格的なTCO分析とGoogleとの戦略的対話を開始し、この新たな道を真剣に評価することを推奨します。
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引用文献
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- How Gemini's 'on-premise' upgrade could help your enterprise and advance sovereign AI, 8月 29, 2025にアクセス、 https://aitopics.org/doc/news:F5D0C5CD
- Google makes Gemini available on-premises | CIO Dive, 8月 29, 2025にアクセス、 https://www.ciodive.com/news/google-cloud-gemini-on-premises-AI-model/758772/
- How Gemini's 'on-premise' upgrade could help your enterprise and advance sovereign AI, 8月 29, 2025にアクセス、 https://www.zdnet.com/article/how-geminis-on-premise-upgrade-could-help-your-enterprise-and-advance-sovereign-ai/
- Gemini is now available anywhere | Google Cloud Blog, 8月 29, 2025にアクセス、 https://cloud.google.com/blog/topics/hybrid-cloud/gemini-is-now-available-anywhere/
- Google Cloud expands Gemini AI & data residency in Singapore - IT Brief Asia, 8月 29, 2025にアクセス、 https://itbrief.asia/story/google-cloud-expands-gemini-ai-data-residency-in-singapore
- Unlock On-Prem AI with Gemini 2.5 and Google Distributed Cloud - SSOJet, 8月 29, 2025にアクセス、 https://ssojet.com/blog/unlock-on-prem-ai-with-gemini-25-and-google-distributed-cloud
- Gemini to Arrive On-Premises with Google Distributed Cloud - InfoQ, 8月 29, 2025にアクセス、 https://www.infoq.com/news/2025/04/google-gemini-gdc-preview/
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- LLM Security by Design: Involving Security at Every Stage of Development, 8月 29, 2025にアクセス、 https://blog.securityinnovation.com/llm-security-by-design
- LLM Security: Top 10 Threats & Best Practices, 8月 29, 2025にアクセス、 https://www.aquasec.com/cloud-native-academy/vulnerability-management/llm-security/
- Open-Source LLMs: Top Tools for Hosting and Running Locally - TenUp Software Services, 8月 29, 2025にアクセス、 https://www.tenupsoft.com/blog/open-source-ll-ms-hosting-and-running-tools.html
- Navigating The Challenges Of Open-Source LLM On-Premise Implementations - Xite.AI, 8月 29, 2025にアクセス、 https://xite.ai/blogs/navigating-the-challenges-of-open-source-llm-on-premise-implementations/
- Google Gemini Pricing Guide: What You Need to Know, 8月 29, 2025にアクセス、 https://www.cloudeagle.ai/blogs/blogs-google-gemini-pricing-guide
- Gemini Pricing: Everything You'll Pay for Google Gemini - UC Today, 8月 29, 2025にアクセス、 https://www.uctoday.com/collaboration/gemini-pricing-everything-youll-pay-for-google-gemini/